ナノパウダーの健康食品への応用

~ナノイチョウ葉エキスの認知症への効果~

嶋田伸司1、田中康一2

1.天利医学研究所 2.東京都老人総合研究所


【目 的】

従来のイチョウ葉エキス粉末は顆粒サイズが大きく、また、植物細胞壁が破壊されておらず、有効成分が十分に体内で吸収されないため、脳細胞の活性化に顕著な効果を上げることができなかったと考えられる。
本研究では、ナノテクノロジー加工による新奇イチョウ葉エキス標品の脳機能への効果を明らかにするため、新奇イチョウ葉エキスを経口投与したラットの大脳皮質シナプスの機能変化、及び海馬における神経活動の変化を測定し、その活性を従来品と比較することを目的とした。

【結果と考察】

本研究で用いた気相粉砕法と液相粉砕法でイチョウ葉エキス粉末を加工すると、植物細胞壁の破壊の進んだナノサイズの微粒子になった(写真1、写真2)。動物実験の結果は以下のとおりである。

1)このようなナノテクノロジーでの加工によって、イチョウ葉エキスの顆粒サイズが小さくなることでイチョウ葉エキスの有効成分の吸収を高めることができると期待される。 CQRS-2型量子共鳴分析器での測定結果でも顆粒サイズが極めて小さくなったことから、人の血液、動脈、及び心臓筋肉に対する効果が大きいことが示唆された(表1)

【表1】 CQRS-2型量子共鳴分析器での測定結果

測定内容
(人体に影響)

イチョウ葉エキス
(ナノ化前)

イチョウ葉エキス
(ナノ化後)

血液 5 24
動脈 17 29
心臓筋肉 13 28

  >20              顕著に優れた効果

17~20             優れた効果

 14~16               よい効果

 <14                 普通の効果

2)大脳皮質シナプスにおけるアセチルコリン(ACh)の合成と放出への効果

1Aに大脳皮質シナプスにおけるACh合成活性に対する各イチョウ葉エキス標品の投与効果を示す。イチョウ葉エキス投与ラットのACh合成活性はコントロールラットとほぼ同様であったことから、どのイチョウ葉エキス標品とも大脳皮質シナプスにおけるACh合成活性には影響を与えないものと考えられる。
次に、高カリウムの脱分極刺激によるシナプスからのACh放出活性への効果をみた(図1
B)。イチョウ葉エキスを投与したラットの大脳皮質シナプスからの ACh放出がコントロールラットに比べて促進されている傾向が認められた。特に新奇イチョウ葉エキス標品(30 nm粒子、GK30)投与ラットではコントロール群に比べて有意に ACh放出が促進された。これらの結果から、イチョウ葉エキスは老齢ラット脳シナプスにおけるACh合成を促進することなしに、脱分極刺激によるACh放出効率を促進することが示唆された。

シナプスでの神経伝達物質の放出は電位依存性カルシウムチャネルからのカルシウムイオンの流入が引き金となる。カルシウムイオン感受性色素のFura2を用いてイチョウ葉エキスのカルシウムイオンの流入量変化を測定したが、特に同標品がカルシウムイオン流入を促進している結果は得られなかった(data not shown)。


3)海馬におけるニューロン活性への効果

2Aは、海馬CA1錐体細胞層における集合電位(Population Spikeの大きさを示すものである。イチョウ葉エキス投与群ではこの集合電位のamplitudeがコントロール群に比べて増大していることが明らかになった。特に新奇イチョウ葉エキス100 nm粒子標品(GK100投与ラットでは集合電位の有意な増幅が認められた。また、細胞の興奮性の指標である興奮性後シナプス電位(Excitatory PostSynaptic PotentialEPSPもイチョウ葉エキス投与群ではコントロール群に比べて増加傾向を認めた(図2B)。即ちイチョウ葉エキスの投与によって海馬錐体細胞の刺激に対する応答性が亢進されたか、あるいは刺激に応答する細胞集団が増加したことを示唆する結果と考えられる。

Williamsらによるとイチョウ葉エキス(EGb 761は老齢マウス海馬における長期増強を促進するが、ペアパルス促進(paired pulse facilitationPPFへの効果はなかったことから、EGb761の作用は前シナプス性ではなく後シナプス性であると結論付けている。しかしながら、前シナプス標品であるシナプトソームからの脱分極刺激によるアセチルコリン放出がイチョウ葉エキス、特に新奇イチョウ葉エキス標品で有意に増加したことは、本ナノ標品が前シナプスから神経伝達物質放出に従来の標品より有益な効果を有することを示唆する。Ramassany2)はアスコルビン酸/Fe2+でシナプトソームを処理しシナプス膜脂質を酸化すると、膜流動性の低下とドーパミン取り込みの低下が起こるが、EGb 761を作用させるとこれら二つのパラメーターが回復することを報告した。さらに、Drieu3)Stoll4)は、イチョウ葉エキスが脳の細胞膜流動性を増加させると報告しているが、本研究においても新奇イチョウ葉エキスナノサイズ微粒子標品シナプス膜の流動性を増加させてシナプス小胞とシナプス形質膜の融合効率が高まった可能性が考えられる。

以上、新奇イチョウ葉エキス標品投与によって大脳皮質シナプスからのアセチルコリン放出活性が高まること、海馬錐体細胞の刺激応答性が改善することが明らかになった。


【文 献】

1)  Williams B, Watanabe CM, Schultz PG, Rimbach G, Krucker T., Age-related effects of Ginkgo biloba extract on synaptic plasticity and excitability.Neurobiol Aging. 2004;25(7):955-62.

2)  Ramassamy C, Girbe F, Christen Y, Costentin J. Ginkgo biloba extract EGb 761 or trolox C prevent the ascorbic acid/Fe2+ induced decrease in synaptosomal membrane fluidity. Free Radic Res Commun. 1993;19(5):341-50

3)  Drieu K, Vranckx R, Benassayad C, Haourigi M, Hassid J, Yoa RG, Rapin JR, Nunez EA. Effect of the extract of Ginkgo biloba (EGb 761) on the circulating and cellular profiles of polyunsaturated fatty acids: correlation with the anti-oxidant properties of the extract.Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. 2000

4)  Stoll S, Scheuer K, Pohl O, Muller WE.Ginkgo biloba extract (EGb 761) independently improves changes in passive avoidance learning and brain membrane fluidity in the aging mouse.Pharmacopsychiatry. 1996 29(4):144-9.

写真1

30 nmの粒子が透過型電子顕微鏡により確認された。

写真2

植物細胞壁が破壊されていることが走査型電子顕微鏡により認められた。


1A

大脳皮質シナプスにおけるACh合成活性に対する
各イチョウ葉エキス標品の投与効果を示す。

1B

イチョウ葉エキスを投与したラットの大脳皮質シナプス
からの
ACh放出がコントロールラットに比べて促進されて
いる傾向が認められた。

2A

海馬CA1錐体細胞層における集合電位(Population Spike)の
大きさを示すものである。

2B


イチョウ葉エキスの投与によって海馬錐体細胞の刺激に対する
応答性が亢進されたか、あるいは刺激に応答する細胞集団が
増加したことを示唆する。